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落とした飴に群がる蟻をじっと見つめていました。
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コミュ記事とか何も上がってないけど、とりあえず先にこっち。
20時過ぎてから慌ててガチャガチャやってた日記でしたの巻。


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 戦闘を終えた町屋は、草原に大の字で寝転び、遺跡内の空を見上げていた。足を踏み入れた当初は、天井に空を描いたものだとばかり思っていたが、見れば見るほど本物の空と違いが解らなくなってくる。首を傾げて眺める角度を変えてみるが、雲は穏やかに流れていくばかりで、ますます狐に摘まれた心地になってくる。
 不思議なものだと思ったが、その不思議こそが胸を躍らせる。自然と顔には笑みが宿り、楽しげに鼻歌を口ずさんでいる。お世辞にも上手いものとは言えなかったが、それを気にもせず、白い雲の歩みに合わせて声を紡いでいた。

「おーうおーう、姉ちゃん楽しそうにしてるじゃないのさぁ」

「おかえり古銭ちゃん」

 どこかから飛んできた古銭が、町屋の目の前に浮かぶ。太陽に被さったカプセルの輪郭が、白い光で縁取られている。実体は口喧しい存在だが、今このときばかりは、少しだけ神聖なものに見えた。その感想が、自分自身でもおかしくなって、町屋は肩を小刻みに震わせている。

「ところでよ、まっちゃん」

「その呼び方は止めてね。なぁに古銭ちゃん」

「あの二人はやたら強くありませんか。オイラびっくりしちゃったい」

 あの二人というのは、同行することになったミルワとクランツのことだろう。ほんの十分少々前を思い出す。始めこそ自分が二人を守るのだと息巻いていた町屋だったが、蓋を開けてみれば、立場は全くの逆だった。近接戦闘での身のこなしで及ばないのは当然のことだが、不可思議な魔法の力に至っては、すでに理解が遠く及ばなかった。辛うじて足を引っ張ることだけは避けられたはず、つまり、それが精一杯だった現実を自覚して、静かに溜息が零れ落ちた。

「すごかったねぇ」

「お前さんったら超足手まとい!」

 歯に衣着せぬ率直な物言いを受けて、町屋の表情は曇る一方だった。草の上から上半身を起こし、本来存在する重力を二倍にしたような雰囲気で、重く肩を垂れ下げる。普段から活気に満ち溢れている方でもなかったが、今はそれ以上に、陰鬱な気配を漂わせていた。
 せめて今より力をつける方法はないものか、そう考えたところで、最低限の身を守る術しか持ち得ない町屋には難しい話だった。今から鍛えたところで、あの二人と同行している間に、劇的なまでの成長を遂げることは不可能に思える。仮にそれが可能であったとしたら、皆が皆、もちろん敵も同じ手段を実行するはずで、結局は差が埋まらないのだ。

「町屋も魔法が使えたら……あ」

「お?」

 何の気なしに呟いた町屋だったが、脳裏に、この島に来たばかりの記憶が過ぎっていた。初めて遺跡に足を踏み入れたとき、出迎えてくれた男は何を教えてくれただろうか。彼の言葉の中に、何か、大事なヒントが隠されている気がする。
 本来動くはずのないものに力を与え、生命すら持たせることがある、この島独特の力の源。そこら中に溢れていて、手にすることも決して難しくはないはずの──

「そうだ、マナだよ。それがあれば、町屋も魔法が使えるかもしれないねぇ」

「随分突飛な発想しやがった! ……まぁ、でも、案外、瓢箪から駒かもしんないね」

 勢いで突っ込みを入れた古銭だったが、彼は彼で、何か思い出すことがあったらしい。少し考え込んでから、頷くようにカプセルを揺らした。町屋も、そうでしょうと首を縦に振る。顔を見合わせた二人の瞳は、新しい玩具を前にした子供のように輝いていた。
 こうして、町屋と古銭の魔法特訓が始まったのである。

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